あれまぁ、随分話こくっちまったようだね。
あそこにあったお天道さまも、もうすっかり森のむこうだ。
さてそれで。画家さんのほうはどうなったかね? 
おや何だい、随分前に終わってるなら、遠慮しないで言っておくれよ。
話に夢中で気づかなかった? またまた上手いことを言う。
こんな婆ぁを煽てたところで、何にもいいことありはしないよ。
じゃあほら、せっかくだしね。さあさあ早く見せておくれよ。
何を今更、照れるでないよ。
へぇ、なんだい、いい絵じゃないか。 揺れる紫苑に差してる影は、あれだろう? 二人を書いてくれたんだろう? 
清一郎がこれを見たなら、いつものように目元をそっと緩めたろうさ。
ぴたり寄り添う姿だなんて、まったく嬉しい限りだよ。
え、くれるのかい? 
じゃぁ有難く頂こうかね。
いい絵を描いてくれたお礼だ。婆ぁがひとつ、教えておこう。



悪いことは言わないよ。お前さん、今から帰って紫苑の花を供えてやんな。



言っただろう? わかるのさ。
アンタみたいな奴にはね、死の影の匂いとやらが染みついてんのさ。
紫苑の花はもうひとつ、「返魂草」とも言われてるんだ。
アタシが何を言ってるか。分からない程馬鹿ではあるまい?
いくらお互い、同意の上とは言ってもね、骸をまんまは頂けないよ。
愛しているなら尚のこと。
花を供えて一言でいい。声をかけてやんなさい。
でないとどんな終わりになるか。今さっきまで話してたろう?
……それでいい。



さて。
それじゃぁアタシも、そろそろ帰るとしようかね。
むこうで待ってる清一郎に、早くこの絵を見せたいからね。















灰差し峠で誰を待つ









10.05.09


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