恋愛なんて、そうそう上手くいくモンじゃない。
そんなことは、モチロンあたしだって身をもって承知しているけど。
それでも、こう思ってしまうのは、仕方のないことだと思う。

『どうして、こうも上手くいかないんだ』



流花 side story #yoriko
箱庭の傍観者




突然、藍から家に泊まっていいかというメールが来たときは、何かあったんだろうとは思った。
あらかじめ予定をたててあったならともかく、思いつきでそういうことをするタチじゃなかったから。
その予想は、ものの見事に的中していたワケだけれど。
その想いも。出来事も。
告げられて、初めて知ることばかりで。
見抜けなかった自分に、酷く腹が立ったのを覚えている。
もしも、察して傍にいることができていれば。
触れれば砕けてしまいそうな微笑みをどうにか貼り付けて、無理して立つことなど、させなかったというのに。
それでも、あたしは気づけなかったから。
藍が、これからどうしようとも、絶対に藍の傍にいる。
そう、決めたんだ。


佐久間の視線に気づいたのは、それからどれくらい経ってからだろう?
二年になって、あいつと同じクラスになってからだっただろうか。
最初は、心の機微に聡い奴だし、もしかしたら藍の気持ちに気づいていて、フォローに回っているのだろうと、そう思っていたけれど。
その目にわずかに滲む感情に、あたしは気づいてしまったんだ。
視界が歪んだ。眩暈でも起こしそうな勢いだった。

佐久間は、全部知ってるんだ。

藍に何があったのか。そして、消すことも遂げることもできずにただ見つめている藍の相手が、誰なのか。
その全てを承知していて、それでも、佐久間は。
痛みが走った。深く、抉るような。
藍は、きっと気づかないだろう。
今は自分のことで手一杯だだろうし、佐久間は佐久間で隠すのが上手いから。
それに、佐久間はきっと伝えない。伝えようとしない。
あの男は、そういう男だと、あたしは充分すぎるほど知っている。

また、痛みが走った。深く、抉るような。
二人の抱える痛みの何十分かの一を、共有したかのようだった。
あたしは、藍の味方だ。
そう決めたから、佐久間を応援することはできなかった。
むしろ、言い出したところで断られるのは目に見えていた。
そんなものを必要とするくらいなら、無理矢理にでも振り向かせようとしているだろう。
ただ。
あの男は、きっと誰にも吐き出しはしないだろうから。
捌け口になるくらいは、してやろうと思った。
それが、あたしのできる精一杯だった。


この位置に立つのは、普通に考えて必然だったと思う。
一年の頃はそれこそよく四人でつるんでいたし、外側から見ることができるのは、当事者ではないあたししかいないだろうから。
恋愛なんて、そうそう上手くいくもんじゃない。
わかっていても、願ってしまう。


どうか。

どうか。


痛みの先に、温かな陽だまりを。





(待っているもの 08.晴れ間から覗く光)
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05.10.28

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